【1】「イナバウアー」と「品格」■■■

今年の流行語大賞が決定した。毎年の恒例行事として定着しているが、選考基準については様々な議論があるとともに、なぜ流行したかについても考えさせられることが多い。

「イナバウアー」は、ご存知のとおりトリノオリンピックで優勝したフィギュアスケート荒川静香選手の得意技。動物園のレッサーパンダのしぐさも話題となった。荒川選手は得点に反映されないこの技にこだわり続けた。個々の技よりも演技全体のまとまり、観衆へのアピールを重視したこだわりは、まさに賞賛に値する。プロとしての一層の活躍に期待したい。しかし、そこに至る間の苦心にも賞賛を与えたい。今年も活躍しているが、昨年はまさに「真央ちゃん」が日本のエースだった。年齢制限でオリンピックに出場できなかったが、期待の星であったことは間違いない。また、コマーシャルをはじめマスメディアへの露出度では「ミキティー」だろう。

そのような中で、彼女にとって、マスメディアの取り上げ方は発奮材料であったとともに、気持ちを和らげる効果があったかもしれない。期待の重さに満足なジャンプができなかったミキティーと対照的である。「クールビューティー」はオリンピック優勝後である。それまでのマスメディアの取り上げ方は、「クール」はあっても「ビューティー」はなかった。優勝できなかったら・・・、と考えるとどのように表現されていただろうか。

「品格」は、数学者藤原正彦氏のベストセラー「国家の品格」。「論理よりも情緒を」と、マネーゲーム全盛の時代に一石を投じた。「ホリエモン」や「村上ファンド」の現状を見ていると、当然のことを書いていると思えてくるが、彼らがヒルズ族のヒーローとして君臨していた当時に執筆した著者の思いはどうであったのか。

数学者として大学教授である著者が論理を否定するような見解を展開することは意外な感があるが、新田次郎と藤原ていという作家夫婦の子息であり、エッセイストとしての高い評価を得ていることを考えると、その幅広い思考は当然とも思える。それよりもなぜ時代の寵児、ニュー
ヒーローを否定するような著作を記そうとしたのかが興味深い。

「勝ち組」と「負け組」が明確になるアメリカ型競争社会に対するネガティブな世論が形成されてきているが、著者の主張は金銭至上主義の弊害についてであり、競争そのものの否定ではないはずだ。「世界に範を垂れることこそが、日本の果たしうる、人類への世界的貢献」と記している。

流行語大賞の流行した前後の社会、世論の動向と、マスメディアの論調の様変わり。言葉は世につれ、世はマスメディアにつれられ。「マスメディアの自作自演の流行語大賞」とは、言いすぎだろうか。

【広島県土木部長 高野 匡裕】
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