1.洪水調節
【まとめ】
 @ 管理開始以降、35年間で70回の洪水調節、今回評価期間の5年間では10回の洪水調節を行っており、治水に寄与している。
 A 今回評価期間において最大の洪水である平成17年9月の台風14号による洪水では最大約380m3/s 調節し、下流基準点吉田地点では、ダムの調節により約1mの水位低減効果が得られた。
 B 土師ダムでは、下流河川の状況を考慮し洪水調節実施時に放流量を減じる操作(適応操作)を行うことにより、被害軽減に貢献している。
 C 洪水調節開始流量200m3/s (土師ダム建設時の無害放流量)の検証を行った結果、下流河道の流下能力の向上により、無害放流量は350m3/s 程度まで大きくなっていると試算され、今後、洪水調節開始流量の見直し検討を行っていく必要がある。
 D 土師ダムの洪水調節は予備放流方式を採用しているが、これまでの実態や貯水池運用を勘案すると、現実的には難しい面も明らかになった。
 E 平成20年4月より低位放流設備の運用を行っている。洪水初期の円滑な放流量の増加が行えることから、治水容量のより有効活用が図られることとなった。
【今後の方針】
  ・ 今後も引き続き洪水調節機能が十分発揮できるよう適切な管理を行っていく。
  ・ 適応操作実施及び洪水調節開始流量の見直し検討等、洪水調節容量の有効活用に引き続き取り組む。
2.利水補給
【まとめ】
 @ 土師ダムの年間総利水補給量は約300,000千m3〜500,000千m3であり、このうち発電用水が年間約200,000〜300,000千m3、都市用水が年間約100,000千m3程度とこれらが大半を占めている。
 A 年間発生電力量は10ヶ年平均で118×103MWhであった。これは1世帯あたりの平均使用電気量を3,600kwh(300kwh/月)とすると約33,000世帯の年間消費電力量に相当し、電力の安定的な供給に寄与していると考えられる。
 B 至近5ヶ年では、土師ダムにおいて取水制限等は行われていないが、少雨傾向となった時には土師ダムに貯留した水の補給により被害が軽減された。また、平成19年渇水では、太田川水利用協議会(太田川河川事務所、中国電力、広島県、広島市)との調整により、江の川水系、太田川水系への安定した利水補給を継続できた。
【今後の方針】
  ・ 今後も貯留水を適切に管理・運用し、所要の利水補給を行っていく。
  ・ 江の川下流への補給状況及び太田川への分水状況、並びに渇水時の流況改善効果について継続して確認を行っていく。
3.堆砂
【まとめ】
 @ 平成19年度時点における総堆砂量は、2,086千m3となっており、これは計画堆砂容量6,200千m3の33.6%に相当する。管理開始以降34年を経過しており、概ね計画の範囲内で堆砂していると考えられる。
 A 平有効容量内堆砂量は864千m3、有効容量内堆砂率は2.1%となっているが、ダム管理上の支障は殆ど無いものと考えられる。
【今後の方針】
  ・ 今後もダム湖内の堆砂状況を継続的に把握していく。
4.水質
【まとめ】
 @ 貯水池における生活環境項目は、pH、COD、SS、DOともに概ね環境基準を満足しているが、T-N、T-Pは、流入水濃度が高いこともあり目標値を超過している。
 A 貯水池における健康項目は、全ての項目で環境基準を満たしており問題ない。
 B 流入河川、下流河川における生活環境項目は、 pH、BOD、SS、DOともに概ね環境基準を達成している。また、流入河川と下流河川(下流放流口)の水質に大きな差異はみられない。なお、流入水のT-N、T-Pには環境基準は設定されていないが、湖沼の暫定目標よりも高い濃度が流入している。
 C 曝気循環装置の運用結果については、貯水池内の水温分布がほぼ均一化されていること、また大規模なアオコの発生が確認されていないことから、曝気循環装置が一定の効果を上げていると考えられる。
【今後の方針】
  ・ 今後も水質調査を実施し、水質監視を継続する。
  ・ 曝気循環装置などの水質保全施設が一定の効果を上げていると考えられることから、運用を継続する。
  ・ 流入負荷削減に向けて、関係機関との連携に努める。
5.生物
【まとめ】
 @ ダム湖内では、止水性魚類の確認割合は概ね安定している。しかし、特定外来種のオオクチバス(ブラックバス)等の生息・再生産が確認されており、在来種の小型個体が捕食されていると考えられる。また、カワウの集団分布地がダム湖周辺で確認されている。
 A 流入河川では、回遊魚のトウヨシノボリ等が継続的に確認されており、これらの種は、ダム湖の存在により陸封化している可能性がある。
 B ダム下流河川では、ウナギ、カマツカ、ドンコ等の底生魚が継続して確認されている。
 C 洪ダム湖周辺では、猛禽類が継続確認されており、自然環境が維持されていると考えられる。
 D 以上より、ダム運用開始後35年が経過した土師ダム周辺の自然環境は、ダム湖内の止水性魚類の割合に変化がない等から、ダム湛水後の自然環境として安定した状況にあると考えられる。ただし、ダム湖内の外来魚等の再生産、カワウの増加、流況の平滑化等に起因すると考えられる下流河川環境の変化がみられる。
【今後の方針】
  ・ オオクチバス(ブラックバス)、カワウなどの動向に注意しながら、河川水辺の国勢調査等を活用し、今後も生息状況等を調査していく。
  ・ 下流河川の環境改善のため、引き続きフラッシュ放流に取り組む。
6.水源地域動態
【まとめ】
 @ 水源地域の人口はやや減少傾向、世帯数はやや増加傾向であり、一世帯あたりの人員数は減少している。また、高齢者だけの世帯が増加している。
 A 「水源地域ビジョン」が、平成18年2月に策定され、ダム湖畔において「桜守プロジェクト」など地域主体の活動も行われている。
 B 土師ダムには、年間約20万人が訪れており、利用者はリピーターが多い。利用目的の中で最も多いのは散策であり、近年はスポーツ利用から、自然探勝などに目的が変化していると考えられる。
 C 減少しているスポーツの中でも、湖面を利用するカヌーは、競技大会が行われるほど盛んに利用されている。また、新しいスポーツとしてBMX(Bicycle Motocross )が湖畔の施設において行われている。
【今後の方針】
  ・ 水源地域ビジョンの推進を通じて水源地域を支援するとともに、ダムや周辺施設に関する効果的な情報発信に努めていく。また、より快適な利用ができるよう関係機関と連携して取り組む。
7.その他
【まとめ】フラッシュ放流実施結果から以下のように整理される。
 @ 付着藻類の剥離・更新は、放流規模が大きいほど増加傾向となる。
 A 各地点ともピーク流量が到達した時点から、2時間程度の比較的早い時間で付着藻類等が剥離・河床堆積物が掃流され、その後の剥離・掃流は少ないものと考えられる。
【今後の方針】
  ・ 蓄積されたデータを活用し、より効果的なフラッシュ放流の実施について検討を行う。
8.総括
第16回中国地方ダム等管理フォローアップ委員会において土師ダム定期報告書の審議を行った。
1.洪水調節、2.利水補給、3.堆砂、4.水質、5.生物、6.水源地域動態について、前回委員会後の平成16年度から平成20年度迄の期間を主な対象として分析・評価を行った。
  ・ 審議された各項目のうち、洪水調節、利水補給、堆砂については、概ね所期の機能を発揮している。
  ・ 下流河川での洪水被害を軽減する適応操作や低位放流設備設置など洪水調節機能の向上に取り組んでいる。今後は、下流河川の改修状況に応じた洪水調節機能向上について検討を進められたい。
  ・ 水質については、曝気循環装置等の運転によりアオコの発生が抑制されていることを確認した。人工生態礁・浮島の効果について、調査を継続されたい。
  ・ 底生生物の評価については、今回の評価期間での調査を行っていないため、対象としない。 猛禽類に関する記述については、注意すること。
  ・ 水源地域動態については、数字の変化のみならず、意味を考えた上で、慎重に見ていく必要がある。
  ・ 今後とも洪水調節、利水補給の役割を充分に果たしていくとともに、蓄積されたデータの有効活用に努め、水質環境、生物環境、社会環境にも配慮した適切なダム管理に取り組まれたい。
(参考意見)
  ・ 大都市近郊の特徴を反映したダムとして、地域住民の社会的利用を促進してほしい。