意見交換会

プログラム

意見発表の要旨

島根県立島根女子短期大学名誉教授 藤岡 大拙氏

 本日は「斐伊川の流域」特に宍道湖をテーマに考える集会ですが、明治以前の文献では「宍道湖」という言葉は見当たりません。出雲国風土記などでは、乃白川河口一帯の湖岸では「野代の海」、宍道であれば「宍道の海」などと当該地名に沖や海を付けて表現しています。
 ただ、文学的な名前はありました。例えば江戸後期の漢詩人、菅茶山は舟を浮かべて宍道湖で遊んだときに「碧雲湖」と名付けています。これが、恐らく宍道湖全体の統一ネームの最初ではないかと思います。まさに、宍道湖周辺は碧(あお)い水、なだらかな山々、そして空には白い雲、という取り合わせになっており、それが宍道湖の最も美しい一つのポイントになっていると思います。
 田山花袋は「山水小記」の中で、宍道湖は琵琶湖や霞ケ浦、猪苗代湖などよりずっと景色がよい、日本三景の次に数えられるのも当然だ、と褒め称えています。これは、昼間の美しさが日本でもトップだと言っているわけで、夕日の美しさになるとさらに大変です。阿部知二は「宍道湖のほとり」というエッセーで宍道湖の秋の日の夕日を絶賛し、渡辺淳一もエッセー集「みずうみ紀行」の中で「宍道湖の落日の美しさは、日本の湖のなかでも抜きんでている」と書いています。
 田山花袋は明治三十九年、三十五歳ごろにも宍道湖に来ており、湖面に白壁が映る宍道町沖の船上で非常に美しい夕景を見て大きな感激を得、弟子の女性との関係で抱いていた煩悩のすべてを宍道湖の中に捨て去った、といいます。つまり、宍道湖はそういう人間の苦悩とか懊悩(おうのう)とかをピューリファイ(浄化)する、不思議な力、宗教的、哲学的な魅力も持っていることをわたしは強調したいのです。
 夕日が美しいということも、それは伸びやかな低丘陵の背後にいつまでも尾を引くような部分と、遠く二千年の昔に敗れ去ったという出雲の敗北感の揺曳(ようえい)とが、宍道湖にある種の宗教的深みを与えているからではないかと思います。
 こんなことが、宍道湖の今後を考える際、何らかのお役に立てるのでは、と思います。

人と自然に優しい水辺環境を―。

意見発表の要旨

宍道湖周辺のまちづくり・観光について

夕日スポット活用策を提案したい

NPO法人まちづくりネットワーク島根(松江市)専務理事 柏井 光さん

宍道湖の嫁ケ島に歩いて渡ったり嫁ヶ島の草刈りをするといった活動をしています。一般参加者も増え、今夏は約三百人が宍道湖を歩いて渡り、クイズやシジミ採りを楽しみました。
このような活動から宍道湖や嫁ケ島を身近に感じ、ごみを捨てない、観光客に優しくガイドする、などの行動につながるのだと思います。
まちづくりについても考えるきっかけとなりました。夕日スポットをにぎわいや観光資源として活用する方法を提案していきます。

サイクリングコースを整備して

自営業(松江市)多久和 富義さん

  宍道湖周辺には「宍道湖水辺八景」など素晴らしい所が多くあります。それらを結び、自転車や徒歩で湖岸が一周できるコースができないかと思います。
浜名湖や琵琶湖は湖岸一周のサイクリングコースがありますが、宍道湖ではまだ一部でしか自転車は通れません。一周コースができれば、自転車通勤も可能になり、また所々にテラス状の場所を作れば、休憩や釣りなど多用途に利用でき、人々の健康維持に活用されます。コンクリートを使わず木道にすれば環境に優しい道ができます。

海外芸術家の巨大アート創出を

会社員(境港市在住、松江市内勤務)武内 純子さん

 境港から松江へ車で通勤し、流域の美しい風景を毎日楽しんでいます。
最初の提案は、世界的なアーティストのクリスト&ジャンヌ=クロード夫妻に、宍道湖全部をキャンバスに見立て、布を使った、夕日に映える巨大アートを制作してもらってはどうかという構想です。
また、斐伊川流域の新鮮で豊かな食材と水辺の風景を生かし、英国のデザイナーコンラン卿におしゃれな料理とレストランをプロデュースしてもらえれば、世界的な話題になり松江の集客力は高まると思います。

宍道湖周辺の環境・景観について

ポスターを作り湖浄化を呼び掛けて

米子北斗高校2年(境港市)前門 静佳さん

  わたしは宍道湖岸を歩いた時、変なにおいがしたのでその原因を考え、宍道湖についても考え始めました。工場の油漏れや通行人のたばこやごみのポイ捨てなど、信じられないことが当たり前になっています。 宍道湖をいつもきれいにし、次の世代に引き継げるように、わたしたちが先頭に立って活動しなくてはなりません。  できるだけ多くの人に呼び掛けるため、ポスターを作り、目につく所に張ったらいいと思います。宍道湖へ行き、現状を自分の目で確かめるのが一番です。

宍道湖は宝物子どもと一緒に守る

NPO法人斐伊川くらぶ(松江市)理事長 小谷武さん

  わたしたちは、水と森と人にこだわり、特に将来を担う子どもを中心にした活動をしています。   上流と下流が連携をして宍道湖だけでなく斐伊川流域全体を守るため、ダム建設地周辺に花を育て、上下流の者が交流する「菜の花プロジェクト」や、削られた山肌の緑を復元させる「ドングリの森づくり」、「ヨシ原の再生事業」、さらに家庭廃油を集めて車の燃料にしたりしています。   宍道湖は「天の恵みの宝物」であり、みんなで大事にしないといけません。

水質悪化心配子どもの愛情育てる

秋鹿なぎさ公園(松江市)施設長 寺本 正次さん

  秋鹿なぎさ公園で、児童らにヨットとカヌーを指導しています。練習後の舟の汚れに疑問を持った子どもには「宍道湖の水が汚れているから」と答えています。水質が悪くなったのか、ナゴヤサナエという珍しいトンボのふ化が今年は観察できませんでした。ヨシや砂浜も当時に比べて少なくなったように思えて心配しています。   美しい風景が今後も見られるよう、また子どもたちが古里や自然へ愛着を持ち、環境へ配慮する心をはぐくむよう、今後も活動を続けたいと思います。

神秘的な秘密の場所を残して

親子手作りカヌーの会「あめんぼう」事務局 佐藤 和彦さん

  カヌーを親子で製作し、それに乗って宍道湖で遊ぶ活動をしています。   宍道湖にこぎ出すと普段とは違う風景に出会えます。そこには、自然のままの岸辺を背景に宍道湖の神秘的な「水」の美しさがあります。   子どもたちにはこの情景を実際に体験し感性を養い、環境問題や生きることをありのままに学んでほしいのです。規制を加えるほど自然でなくなることを考慮し、親子が自由に遊べ、子どもの気付き期待できる宍道湖の「秘密の場所」をいつまでも残してほしいと思います。

大橋川周辺のまちづくり・観光について

大橋川の歴史や文化守るべき

自営業(松江市)組嶽 博志さん

 十年前、風景が大好きだった大橋川周辺に念願の店を持ちました。海外へよく行きますが、大橋川周辺は世界的にも素晴らしい歴史や文化が残り、世界中の観光客がもっと集められる場所です。   しかし、大橋川拡幅問題の説明会などでは洪水の被害や治水対策のことは説明されますが、工事による文化歴史的、観光・商業面での被害はほとんど言及されません。来年度から景観法が松江市でも適用されます。大橋川周辺は石見銀山同様に世界的に守るべき場所だと胸を張って主張してもよいと思います。

大橋川の改修多くの市民議論を

松江青年会議所(松江市)理事長 後藤 裕志さん

  大橋川改修事業は、今後の松江市を大きく左右します。今後、道州制の論議が進む中で、環日本海、山陰地域の中核を担う松江市の顔となる大橋川周辺の大きな問題を今一度考えてみる必要があると思います。昭和五十年当時から、松江市民はこの事業に真剣に取り組むべきだと活動してきました。   大橋川周辺の商店主や近隣に居住する住民だけでなく、改修を市民の生活、経済環境など多岐に渡って影響をもたらすものとしてとらえ直し、多くの市民と議論していく必要があると思います。

宍道湖周辺のダリアフリー化について

道や護岸整備など障害者の声を聞いて

NPO法人プロジェクトゆうあい(松江市)落合 薫さん

  宍道湖周辺のバリアフリーという問題は観光や環境など全般に関係します。石畳は車いすの方が腰を痛めやすく、石段は全盲の方には恐くて嫌がられます。施設改善も必要ですが、それ以上に気付いたら助ける、危険と思ったら支えるという人の手を介した対応が求められると思います。   きれいなものや楽しいことは、誰でも見たい、身近に感じたいと思うものです。公共側で道や護岸など施設整備する際は、障害のある当事者から、生の声を直接聞いて欲しいと思います。

懇談会委員感想

木幡 修介委員(山陰中央新報社相談役)

 嫁ケ島へ歩いて渡る企画は子どもにもよい思い出になるでしょう。ボランティアのこの種の運動が環境を守るのに必要だと思います。  大橋川拡幅問題は簡単に賛否が割り切れる問題ではなく、大切なのは、松江の町づくりにこの問題をいかに前向きにとらえ知恵を出して活用するかです。

野津 登美子委員(ホシザキグリーン財団企画交流課長)

  高校生の若いエネルギーで環境問題に取り組み、率先して活動していただきたい。湖岸のヨシ再生事業で広がったヨシ原には生き物の生息環境が作られ、湖面は子どもたちの自然体験の場になっているなど、宍道湖はさまざまな人とのかかわりの場があり、素晴らしいと思います。

福島 律子委員(松江市教育長)

  皆さんの発言は、宍道湖の自然や景観を守る活動など実際に行動を起こした方の提言であり、説得力があります。「気付こと」の大切さと、小さなことでも気付いたら行動に移すことの大切さを感じました。 子どもに実地体験させ、大切なことを体で実感させる教育が必要であると思いました。

藤岡 大拙座長(島根県立島根女子短期大学名誉教授)

  皆さんの発言は、宍道湖の自然や景観を守る活動など実際に行動を起こした方の提言であり、説得力があります。「気付こと」の大切さと、小さなことでも気付いたら行動に移すことの大切さを感じました。 子どもに実地体験させ、大切なことを体で実感させる教育が必要であると思いました。

吉田 薫委員(風景研究室代表)

  宍道湖を周回する自転車道の建設はいい提案です。宍道湖での壮大なアート構想も面白く、ともに実現するといいですね。 大橋川は宍道湖や堀川とも趣の違った貴重な水辺であり、かつてのようなにぎわいを取り返す方向で考えるべきです。利用性と景観について十分な配慮が必要です。

会場からのご意見

  • 川のそばでくつろげるような場所がほしい(松江市/30代男性)
  • 宍道湖八景を船で結ぶ観光ルートをつくって(松江市/60代男性)
  • サイクル道の整備、上流下流の交流の意見に感心(松江市/40代女性)
  • アートを通じて宍道湖の自然環境を伝えたい(雲南市/20代女性)
  • 宍道湖や大橋川に泳げる場所を作ってはどうか(松江市/50代男性)
  • 次世代を担う子どもと活動していることに共感した(出雲市/50代男性)
  • 実践している人たちの発表に勇気づけられた。機会があれば参加したい(松江市/60代男性)
  • 子どもの頃の体験は、将来の環境保存に役割大きい(松江市/30代女性)