治水対策
山間の狭隘部を流れる江の川中流部の狭い谷底には、多くの集落が凝集して発達しているが、昭和47年(1972)7月豪雨のような出水によってしばしば冠水してきた。こうした地域事情を考慮し、現在の居住基盤を維持しながら、かつ水害に対して安全性を確保するため、地域づくりを取り込んだ治水事業が進められた。
昭和50年度に着手した島根県川本町三島地区の改修事業では、従来の築堤方式では集落の維持が困難なため、道路改築事業、土地区画整理事業と整合を図り、堤外民地の嵩上げと築堤を同時に行う「盛土方式」を採用した。この方式はその後、島根県桜江町志谷地区で全国初の事業化となった「特定河岸地水害対策事業」を経て、「宅地等水防災対策事業」として、広島県作木村港地区など、江の川沿川の各地で採用している。
なお平成13年度から「水防災対策特定河川事業」として展開されるものである。
広島県双三郡作木村港地区は、作木村の中心地で江の川を利用した舟運業又林産業等により栄えてきたが、その地形的制約から過去幾度となく水害に見舞われ洪水との戦いが繰り返された地域である。
記憶に新しいところでは、昭和47年7月洪水(1972)・昭和58年7月洪水(1983)・昭和60年7月洪水(1985)があり、特に、昭和47年 (1972)7月の未曾有の豪雨では、港地区全体戸数96戸のうち作木村役場・作木中学校を含めて85戸が被災し、家屋田畑への被害は激甚を極めた。
昭和49年(1974)4月に直轄管理区間となり、それを契機に抜本的な改修を図ることとなった。改修方法として、従来の堤防方式によれば山地河川の宿命として、背後の山と堤防に挟まれた窪地に民家が残る事、また貴重な宅地・耕地の減少が著しく、地域社会の存続や住環境に著しい悪影響を招く事等があり種々の検討した結果、地上げ方式で施工を行う事となった。
当地区の改修に当たっては、河川改修事業のみならず広島県が管理する一般国道375号及び主要地方道庄原作木線の改良事業並びに作木村が施工する作木村都市計画事業災害激甚地港土地区画整理事業を合わせて、建設省・広島県作木村の三者が協力し実施したものである。盛土による改修方法は、盛土高は堤内地を含めてH.W.L.までとし、川表肩にパラペット(余裕高1.5m)を設けることとした。
ただし、パラペット地区内を通過する国道・県道は川表側へのバイパスとし、河川改修と合併施工とした。事業は、昭和52年度に着手し関連事業を含め約53億円の総事業と13年の歳月を要し、平成元年度に完成の運びとなった。この地上げ方式は後に「特定河岸地水害対策事業」を経て、「水防災対策特定河川事業」の実施例として、地域づくりを取り込んだ治水事業の礎となったものである。
広島県双三郡作木村井手平地区は、江の川本川とその右岸支流江谷川の合流部に位置しており、港地区に次ぐ作木村の中心地であるが、古くから水害に悩まされてきた。昭和47年(1972)7月の未曾有の大洪水により、井手平地区は全体戸数40戸のうち35戸が被災し、家屋田畑への被害は激甚を極めた。
このような状況から、昭和49年(1974)4月に井手平地区の江の川が直轄管理区間に編入されたことを契機として、抜本的な改修を図ることとなった。
改修を実施するにあたって種々検討した結果、従来の築堤方式により改修を行えば、山地河川の宿命として、貴重な宅地、耕地が激減し、背後の山と堤防に挟まれたわずかな窪地に民地が残ることとなる。このことは、住環境の著しい悪化を招き、地域社会の存続にも関わることが明白であり、かつ内水対策事業の必要が残るなど問題点が多数考えられた。
このため、当地区の改修では、港地区で実績を得た、地区をそのまま計画高水位まで地上げして改修するいわゆる「地上げ方式」で行うこととした。この「地上げ方式」による改修は、現在では「宅地等水防災対策事業」(平成13年度からは「水防災対策特定河川事業」)として制度化されている。
当地区の改修にあたっては、河川改修のみならず、広島県が管理する一般国道375号及び県道大津横谷線の改良事業、ならびに作木村が施行する小集落地区改良事業等を併せて実施するものとし、昭和60年度より事業に着手、総事業費約26億円と7年の歳月を要し、平成3年度に完成の運びとなったものである。
竣工式は平成4年(1992)10月28日に作木村山村開発センターで行われた。
広島県双三郡作木村式地区は、江の川本川とその右岸支流砂井谷川の合流部に位置しており、昭和47年(1972)におきた7月豪雨においては、港地区と同様に、大部分の家屋が浸水、田畑は冠水となった。また近年においても、昭和55年(1980)8月、昭和60年(1985)7月等、度々の出水に見舞われている。
この地区における河川改修においては、港地区河川改修工事で実績のある「地上げ方式」を取り入れ、平成2年度に創設された「宅地等水防災対策事業」として、建設省(現国土交通省)、広島県、作木村の三者が一体となり築堤工事を行った。
本事業は平成3年度より開始し、平成6年度に完成した。
竣工式は平成7年(1995)10月26日に作木村大字下作木で行われた。
広島県双三郡作木村香淀地区は、江の川本川とその右岸支流江谷川の合流部に位置しており、江の川と背後の山地にはさまれた狭隘地区である。
この地区は、昭和47年(1972)に発生した7月豪雨災害において、港地区と同様に、大部分の家屋が浸水、田畑は冠水となり、また、その後昭和58年(1983)の出水等度重なる被害が生じ、改修が切望されていた地区であった。
この地区の改修計画は、地域的条件その他の理由により、いわゆる築堤方式とすることが必ずしも妥当とは言い難く、計画上懸案事項となっていたが、平成5年度より本格的な検討を開始し、平成6年度に改修の方針及び計画の概要が定まり、平成7年度事業着手し、平成13年度に完成した。
改修方式は、堤内地の盛土を行うものとして宅地等水防災対策事業(広島県)・国道375号の改良(広島県)及び作木村単独事業と直轄河川改修事業の合併事業として、実施した。