キシツツジ
 Rhododendron ripense
分 布
本州(岡山県中部より西の中国地方)・四国(高知県東部より西、愛媛県の瀬戸内海側には少ない)・九州(大分県の一部)に分布する。日本固有種。
分 類 被子植物 双子葉植物 合弁花類 ツツジ科
生活形 半常緑 レッドデータブック 広島県指定:準絶滅危惧、広島市指定:環境指標種
生 態
大きな河川の中流から上流部にかけて、少し増水すると水につかるような岩場に生える。岩の割れ目に根をしっかりとはり、洪水でも流されない。詳しく観察すると、ネコヤナギやカワラハンノキの生えるゾーンよりは少し上に位置している。
 太田川をはじめ、江の川、芦田川、小瀬川など広島県の河川には多いが、全国的に見ると分布域の狭いツツジで貴重な存在である。三次盆地では、河川から離れた山地にも分布し、場所によっては山頂にも生育している。これは、三次盆地を形成した古い時代の江の川の流域にあたるのであろうか。
 キシツツジの生態は、中部地方から紀伊半島に分布するサツキの生態と同じで、両者の分布域は重なることはない。
形 態
幹の直径は1〜2 cmで、細かく枝を分け、枝は斜めに立ち上がり、高さ50 cm〜1 m、時に2 mくらいにも達する。若い枝には褐色の毛や腺毛(粘液を分泌する毛)が密生する。葉は春に出る春葉と夏に出る夏葉があり、夏葉が越冬する。春葉は長い楕円形で、長さ2〜5 cm、先は鋭く尖り、葉の両面にはねた褐色の毛がある。夏葉は春葉よりやや小さく、幅も狭く、越冬する。
 花は4月下旬〜5月上旬、ちょうどゴールデンウイークの頃が見ごろである。花は直径4〜5 cm、紅紫色でたいへん美しい。がく片は5枚、長さ15〜20 mm、腺毛が多く粘る。雄しべは10本。雌しべの花柱は雄しべより長く、毛はない。果実はがく片に囲まれ、長さ8〜11 mm、褐色の毛があり、裂開して、小さい種子を散布する。
類似種
モチツツジはキシツツジにきわめてよく似ているが、広島県には分布しない。モチツツジのがく片は大きく、長さが25 mmに達する、また、モチツツジの雄しべは5本であることで容易に区別できる。
 栽培種のヒラドツツジは長崎県平戸市の武家屋敷で改良されたツツジ類の総称で、花は大きく径10 cmにも達する。ヒラドツツジはリュキュウツツジを母体に、キシツツジ、モチツツジ、ケラマツツジなどを交配して作出したと推定される。広島市平和公園や半兵衛庭園などに植えられているツツジの大部分はヒラドツツジで、キシツツジによく似ているが、葉も花も大きい。
生育場所(太田川での分布)
キシツツジは太田川を代表する名花で、可部から上流に多く、三篠川にも少ないが分布している。三段峡、滝山峡など上流部の渓谷では群生し、観光のポイントともなっている。太田川の最上流部にあたる廿日市市吉和の中津谷(なかつや)渓谷、魅惑の里などにも多い。可部より下流では、自生地は見つかっていない。
生活サイクル
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