【3】都市整備と文化財について(私論)■■■
〜福山城の例〜

ここで述べることは、飽くまでも私論であり、必ずしも福山市の公式な見解ではありませんので、ご了承下さい。

当市では現在、懸案であった福山駅前広場の整備に取りかかっています。駅の北、数百メートルの位置に福山城があります。『城内の一画に駅がある』が正しい言い方かもしれません。

かつての城の内堀付近に鉄道があり、外堀付近に駅前広場があります。試掘の結果、古地図等でほぼ想定されていた位置から外堀の石垣の一部が出土しました。想定されていたとは言え、いざ出土すると、その保存と活用等を巡って議論が沸き起こっています。

今後の調査で出土が想定されるものに、二重櫓と御水門があります。二重櫓は、石垣の角の部分に相当することから、しっかりとした石積みが想定されます。また、御水門は、外堀が北に湾入したところにあり、その湾入は、海から直接船で城内に物資を運びこむための船溜りで、この城の特徴の一つということです。このため、『現状のまま残すべきだ』『観光等の資源として利活用すべきだ』等の意見が出ています。

城の天守閣や現存の櫓等の付近は、現在では福山城公園として面的に整備され、風致地区として良好な景観が保たれており、多くの人々に親しまれています。

駅の南側や、北側でも風致地区のすぐ外は、かつては城の一部でしたが、今では主として、商業地域や近隣商業地域等の用途地域であり、市街化されています。計画上も実際上も、風致地区とその外では、大きく土地利用が異なっています。

これまでも、開発の前に文化財調査を行ったところ、堀の石垣等が出土しており、それらのうち一部は現地で保存されています。すなわち、駅周辺でこれらを見ることができます。しかし、どれだけの人の目を引いているか、疑問ではあります。

また、場所を移して別途利用した例もあります。最近では、駅近隣のマンション建設現場から出土した石垣の石を市内の實相寺(福山藩家老の菩提寺)で利用しています。

結局のところ、「天守閣等」と「石垣の一部」は、“面”としてまとまって残っている前者と、今となっては“点”としてしか残っていない(残すことができない)後者という違いが、魅力の面において大きな差異を生んでいます。堀と石垣も連続して“面”あるいは、せめて“線”として残っていれば、異なった魅力が創出されていたものと思われます。

一方、駅前広場整備において、「何故地下空間まで使う必要があるか」ということを省みると、人、バス、タクシー、一般送迎、さらには、通過交通が輻輳し、地上部分の利用だけでは、安全性と利便性の課題を解決できないことに行き着きます。文化財の保存によって、これらを大きく犠牲にすることはできないと思っています。現状よりも良くなるのであれば、利便性は多少犠牲にできるかもしれませんが、安全性を蔑ろにはできません。もちろん、整備にかける費用よりも得られる効果が大きいことが大前提です。

このようなことを踏まえると、今回の当市の場合、『確実な都市整備の中で、人々に親しまれるように文化財を活用していくこと』が重要であると考えます。親しまれるために、保存、移設、別途活用などの選択肢があると思っています。

残された時間は多くはありませんが、後世から謗りを受けない良い選択ができるようにしたいと思います。

【福山市建設局参事 三宮 武】
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