千代川は、鳥取県東部の日本海側に位置し、その源を鳥取県八頭郡智頭町の沖ノ山(標高1,319m)に発し、鳥取市で佐治川、八東川、袋川等の支川を合わせて鳥取平野を北流し日本海に注ぐ、幹川流路延長52km、流域面積1,190q2の一級河川である。

 その流域は、鳥取市をはじめとする1市3町からなり、流域の土地利用は山地が約92%、田畑等の農地が7%であり、宅地等の市街地が1%となっている。
 上流域は中国山地の脊梁部をなし、比較的起伏量が大きく急峻な標高1,200〜1,500m級の山地に取り囲まれ、支川は三方向から千代川に合流する。また、氷ノ山から那岐山一帯は氷ノ山後山那岐山国定公園に指定されており、氷ノ山をはじめとする急峻な山々が重層的に連なり、深い緑と滝や渓谷が織り成す景観が美くしく四季を通じて観光やレジャーに訪れる人が多い。
 中流域は流しびなで有名な用瀬地区の直上流の佐治川合流点から八東川合流点までの谷底平野を縫うように蛇行しながら流下する。全国的にその名が知られ、鳥取県の無形民俗文化財にも指定されている用瀬の流しびなは毎年旧暦の三月三日に催され、その日は、普段は静かな町にも多くの人々が集まり活気に溢れる。また、和奈見地区の低水路内に存在する枕状溶岩は海底火山の痕跡を今に伝えるものと言われ、学術上貴重な岩であるとともに環境・地学教育に果たす役割も大きい。
 下流域は縄文海進により形成された古鳥取湾が、その後千代川が運ぶ土砂により埋められ形成された鳥取平野が拡がり、鳥取県庁をはじめとした県の中枢機関をはじめ、電子産業、製紙工場などが立地し、この地域における社会、経済、文化の基盤をなしている。また、河口の右岸側一帯は山陰海岸国立公園に指定され、千代川右岸に隣接し日本一の規模を誇る鳥取砂丘には、毎年100万人を超える観光客が訪れ、鳥取県を代表する観光名所になっている。
 このように、本水系の治水・利水・環境についての意義は極めて大きい。

 流域の地質は、八東川合流点付近を境に上・下流側で地質構成が大きく異なる。上流側には中生代ジュラ紀の三郡変成岩(千枚岩)およびこれを貫く白亜紀の花崗岩類が広く分布している。下流側の山地は、基盤の花崗岩類を覆って、新生代第三紀の礫岩・泥岩・火山岩類が広く分布している。中流部の谷底平野には礫主体の、下流部の沖積平野(鳥取平野)には泥主体の河川堆積物がそれぞれ分布している。
 
 流域の気候は日本海側型気候地域に属しており、冬季にも積雪による降水量が多い。年間降水量は平均2,000mm程度で、本川沿いでは少なく、三方の山地部において多くなっている。
 
 上流部は基幹産業が林業である関係もあり、スギ、ヒノキの針葉樹が大勢を占めるが、最上流部にはブナ、ミズナラ等の広葉樹も見られる。また、広大な自然林が残る氷ノ山の山頂近くにはキャラボクが生育しているとともに、国の特別天然記念物であるヤマネや中国地方の個体群として貴重なツキノワグマ等の哺乳類も生息している。さらに、芦津渓谷、三滝渓谷をはじめとする渓谷には良好な渓谷林が存在すると共に、千畳滝、雨滝、山王滝、大鹿滝等の多くの滝を目にすることが出来る。
 中流部ではアユやオイカワ等の魚類が生息する他、用瀬地区では、露岩の間を白波をたてて流下する区間の岩陰でヤマメの生息が確認されている。 また、一般に湧水のような清澄で冷たい水を好むホトケドジョウも確認されている。
 下流域のうち、八東川合流点付近の河原地区は千代川有数のアユの漁場であり、アユ釣りのシーズンには多くの太公望で賑わう。また、因幡大橋から源太橋付近にかけての浮石状の瀬が多く存在する区間は千代川で最も規模の大きなアユの産卵床となっており、アユとともにアユカケの個体数も多い区間となっている。
 河道内の中州には砂礫を好み、そこを営巣場とするイカルチドリの生息が確認されている。また、ワンドに代表される湿地には抽水性植物のミクリが生育している。さらに、堰の湛水面等の開けた水面にはカンムリカイツブリが飛来する。

 千代川の本格的な治水事業は、鳥取中心市街地の洪水被害軽減を目的として、大正12年に行徳における計画高水流量を3,300m3/sとした改修計画を策定し、大正15年より本川下流の捷水路工事、袋川の付替工事、築堤等を施工し、河口を除き現在の千代川の骨格が形成された。
 その後、昭和34年の伊勢湾台風、昭和36年の第二室戸台風を契機として、昭和41年に行徳地点における計画高水流量を4,700m3/sとし、堤防の新設及び拡築、河口付替、護岸整備等を実施した。
 さらに、昭和59年には、昭和54年10月洪水等の出水状況および流域の開発状況等にかんがみ、工事実施基本計画を改定し、基本高水のピーク流量を基準地点行徳において6,300m3/sとし、このうち洪水調節施設により800m3/sを調節し、計画高水流量を5,500m3/sとした。

 河川水の利用に関しては、主として約7,400haにおよぶ農地のかんがい用水として利用されているほか、明治41年に建設された荒舟発電所を始めとする16ヶ所の水力発電所(総最大出力約56,000kW)の発電用水、鳥取市街地への工業用水、上水道水に広く利用され、流域内の水は千代川に依存しているのが実態である。このため、昭和53年、平成6年の大渇水では断水や農業用水の取水制限等による被害が発生した。また、千代川流域、とりわけ袋川流域は渇水に対し脆弱であり、雨乞いに起源を持つと言われる傘踊りが今に伝わる。

 水質に関しては、千代川の河口から有富川合流点までがA類型、それより上流はAA類型で、水系内の環境基準点における近年のBOD75%値は概ね満足している。しかし、鳥取中心市街地を流下する袋川については水質の悪化が問題となっており、水質改善を目的とした底泥の浚渫、新袋川との分派点からの導水等が実施されている。

河川の利用に関しては、旧暦三月三日に行われる「流しびな」(鳥取県無形民族文化財)が千代川の水辺と深く関わりあった伝統行事の他、夏祭り、花火大会、アユ祭り等のイベント会場として広く利用されている。
 水面の利用では、清澄な流水と良好な自然環境を利用したカヌーや、アユをはじめとした遊漁者で、大いに賑わっている。また、八東川の合流点はハングライダーのメッカとして、全国的な規模の大会も開催され、千代川の高水敷は着陸場として利用される。さらに、流しびなやカヌーの行われる用瀬地区では、河道内の露岩にはそれぞれ名称が付けられるとともに河川景観のポイントとして住民に親しまれている。
 一方、袋川沿いの町屋地区や谷地区では水辺の楽校が整備され、環境学習等の場としても利用されている。

 千代川流域においては、様々な住民団体が千代川流域における健康、癒し、環境意識の高まりを目指して活動しており、毎年開催されている河川清掃等において河川愛護の啓発活動や環境学習を行っている。