第16回 海の再生全国会議in広島
開催報告

基調講演

基調講演「閉鎖性水域・瀬戸内海における水環境の管理」
広島大学環境安全センター長・教授 西嶋 渉 氏

令和3年6月に公布された瀬戸内海環境保全特別措置法の一部改正を受け、瀬戸内海では地域における海域利用の実情を踏まえた順応的かつ機動的な栄養塩類の管理など、特定の海域ごと・季節ごとのきめ細やかな水質管理が求められています。
基調講演では、瀬戸内海における1980年代以降の栄養塩や基礎生産速度の変化の分析結果を踏まえ、栄養塩管理の方向性として、「環境悪化のフロー」を回避しつつ「生物生産のフロー」を高めるような、季節や場所に応じた栄養塩管理が求められている ことが重要であるとのお話をいただきました。また、栄養塩管理だけで豊かな海の実現を目指すことは難しく、管理する海域の生態系等の理解を深め、生物の生息場の保全・回復を含めた広い視野で「きれいで豊かな海」を目指す取り組みを行うこと が求められているとのご提言をいただきました。

東京湾

各湾からの取組紹介(東京湾:国土交通省関東地方整備局)

東京湾からは、東京湾再生行動計画(第二期)における活動報告として、東京湾の港湾区域において多様な主体と連携・協働してアマモ場再生に取り組み、人々の海への理解や関心を高める「UMIプロジェクト」の年間活動状況、 横浜港臨港パーク前面海域浅場モニタリング実証試験の実施状況、また、赤潮や青潮の原因となるN(窒素)やP(リン)といった栄養塩を利用して生育するワカメを市民の方々等と協働して育成し、海域の環境を浄化しようとする「夢ワカメ・ワークショップ」の取り組みをご報告いただきました。

伊勢湾

各湾からの取組紹介(伊勢湾:国土交通省中部地方整備局)

伊勢湾からは、伊勢湾再生行動計画(第二期)の中間評価の概要について、健全な水・物質循環の構築、多様な生態系の回復、生活空間での憩い・安らぎ空間の拡充の基本方針について継続して取り組みを実施していること、 漁業生産等で減少が見られるが、概ね環境改善等の効果を確認していることをご紹介いただきました。 また、伊勢湾シミュレーターを活用した検討や底層DOの改善施策の実施、栄養塩管理の試行、伊勢湾流域圏一斉モニタリング等による市民・企業との協働を継続して実施しており、 今後もモニタリング・分析をしながら取り組みを継続し、健全で活力ある伊勢湾を再生し、次世代に継承していくとのご報告をいただきました。

大阪湾

各湾からの取組紹介(大阪湾:国土交通省近畿地方整備局)

大阪湾からは、大阪湾再生行動計画(第二期)の中間評価の概要について、汚濁負荷量の削減により赤潮発生頻度が減少していること、親水空間の利活用により「海への近づきやすさ」が向上していることや、 湾口部、湾央部は生物生育に十分な海底の溶存酸素濃度=5mg/L以上を維持しているが、湾奥部は依然として5mg/L未満の海域があることなどをご紹介いただきました。 また、官民連携の取り組みとして、学校教育等との連携の一環で高校生フォーラム(大阪湾フォーラム)を開催していること、新たな取り組みとしては、兵庫運河で撤去材の基礎石やケーソン中詰砂を有効活用して造成した干潟を活用した環境学習やブルーカーボンを指標とした温室効果ガスの吸収源対策 を推進していること等をご報告をいただきました。

広島湾

各湾からの取組紹介(広島湾:国土交通省中国地方整備局)

広島湾からは、広島湾再生行動計画(第二期)における行政機関の主な取り組みや、官民連携組織「広島湾さとうみネットワーク」による、 漁業者と協働でアサリ養殖場を整備する「干潟プロジェクト」の活動、企業・市民・行政等が連携して広島湾におけるブルーカーボンの取り組みを推進するための「広島湾ブルーカーボン研究会」の活動、 「広島湾さとうみネットワーク」の活動を広くPRするためのイベント「広島湾さとうみフェスタ」等についてご紹介いただきました。また、今後の取り組みとして、 広島湾再生行動計画(第二期)の中間評価結果における水環境の課題に取り組むための勉強会を開催すること、「広島湾さとうみネットワーク」ではパートナー企業を募集し、 企業から資金や技術・人などの支援を受け活動全般に活用できるようにすること等もご報告をいただきました。

周南市

話題提供(周南市役所 産業振興部水産課 中野 孝明 氏) 
~大島干潟から、つながる周南市ブルーカーボンプロジェクト in 徳山下松港~

周南市からは、中国地方整備局が徳山下松港の港湾整備により発生した浚渫土砂を有効活用して造成し、平成30年に周南市へ引き渡された大島干潟(約29ha)における取り組みについて話題提供をいただきました。 大島干潟では平成29年11月に地元住民、漁業者からなる「大島干潟を育てる会」が設立され、アサリ養殖、カキの養殖実験などが行われ、また「海辺の自然学校」など海洋環境学習の場としても活用されています。 近年は、会員の高齢化や会員数の伸び悩み、財源が課題であることから、「大島干潟を育てる会」の活動の活性化や継続性の確保を目的として、大島干潟でブルーカーボン・オフセット制度を活用した クレジット取引を実施していることが報告されました。

JFEスチール

話題提供(JFEスチール株式会社 スチール研究所/広島大学客員教授 宮田 康人 氏) 
~鉄鋼スラグ製品による海域環境改善の取り組み~

JFEスチール株式会社からは、鉄を作る製造プロセスの副産物である「鉄鋼スラグ」を主原料に製造した、海域向け鉄鋼スラグ製品(環境改善資材)の活用事例についてご報告いただきました。 広島県福山港内港地区で、広島大学とJFEスチール株式会社が共同で行った底質改善実証試験結果によると、海底に堆積したヘドロへ鉄鋼スラグ製品を散布したところ、硫化水素の元となる 硫化物が大幅に削減されその効果が継続していることや、ホヤやカニなどの底生生物、魚の稚魚などが冬季に生息するようになったこと、新たに着生した二枚貝が「生物による水質浄化」に寄与 していることなどの効果が確認されたことが報告されました。

広島国泰寺高校

話題提供(広島県立広島国泰寺高等学校) 
~海洋環境問題への取組について~

広島県立広島国泰寺高等学校の科学部生物班・海洋班からは、生徒の皆さんが独自に行っている海洋環境問題の研究について発表が行われました。「潮流の速度の違いによるイソガニのマイクロプラスチック摂取量」 では、「潮流の速度が小さくなるにつれてイソガニのマイクロプラスチック摂取量が増えるのではないか?」と仮説を立てて、潮流が異なる2地点でイソガニを採取し、マイクロプラスチック摂取量 の違いを調べました。今回の研究では、イソガニからマイクロプラスチックが確認できなかったため、同じ場所に長期間生息しているフジツボを対象に実験を行っていることが報告されました。 「干潟の持つ浄化能力~アサリについて~」では、アサリによる干潟の浄化能力を定量的に評価するために、「小さな墨汁の粒子は濾紙を通り抜けること」、「アサリがろ過して擬糞として排出した 墨汁の粒子は濾紙を通り抜けないこと」に着目して実験を行っていることが報告されました。

参加者からのご意見紹介

当日、会場でお答え出来なかった発表者への質問・ご意見とその回答をまとめましたのでご覧下さい。 Q&Aを見る