苫田ダムは岡山県苫田郡鏡野町(旧奥津町)に平成17年3月に完成しました。苫田ダムは色々な目的を持つ、コンクリートで造られた重力式コンクリートダムで、ダムの高さは74m、ダムの長さは225m、水を貯めることの出来る貯水量は8,410万m3で、岡山県内では高梁川の新成羽川ダム・旭川の湯原ダムに次ぐ3番目の貯水量になります。
苫田ダムの貯水池は旧奥津町に建設されたことなどから、公募により「奥津湖」と命名されています。
コンクリートを主な材料として築造し、コンクリートの重さで、水圧に耐えるのが特徴のダムです。膨大なコンクリートが必要になるのと、コンクリートの重さに耐えられる地盤がないと建設できません。日本では、1900年に神戸でつくられた布引五本松ダムが最初の重力式コンクリートダムです。
他のダムの形には、アーチダム、フィルダムなどがあります。
アーチ式コンクリートダムは、川岸の強固な岩盤があるところに適したダムです。アーチ型をしているので、コンクリートの量が少なくてすむので、重力式コンクリートダムに比べて工事費用は安くなります。
フィルダムとは、土砂で台形状の構造物を盛り立て河川を堰き止める型式のダムです。大別して土が主体でダム型式としては最も古典的なアースダムと、岩石・砂・粘土の層を重ねて水を遮るロックフィルダムに大別されます。苫田ダムの鞍部ダムはこの形式です。地盤が堅固でなく、コンクリートダムの建設が困難な場合に建設される事が多いです。
型式 | 重力式コンクリートダム |
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ダムの高さ(堤高) | 74m |
ダムの長さ(堤頂長) | 225m |
ダムの体積(堤体積) | 約30万m3 |
水の集まってくる広さ(集水面積) | 217.4km2 |
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貯水池の広さ(湛水面積) | 約3.3km2 |
平常時最高貯水位 | EL.210.5m |
最低水位 | EL.189.0m |
ダムが貯めることのできる水の量(総貯水容量) | 8,410万m3 |
利用するための水の量(利水容量) | 2,810万m3 |
水の貯まる広さは3.3km2、倉敷マスカットスタジアムグラウンド面積の220倍。
苫田ダムの放流設備は、非常用洪水吐、水位維持用放流設備、常用洪水吐と利水放流(設備)の4種類の放流設備で構成しています。
苫田ダムより毎秒100m3以上の水を流す際に使用する設備を常用洪水吐といいます。
この設備のゲートは、その形状から放射状という意味のラジアルゲートと呼ばれます。
1門のゲートの大きさは3.4m四方、苫田ダムには、このゲートが2門有り、ここから流すことの出来る水の量は、最大で毎秒470m3、25mプール約1杯分になります。
大雨の際にはダムに入る水量を調節しながら流し、下流での洪水による被害の発生を軽減しています。
★ダイナミックな放流を真上から見ることができます!
誰でも堤体内見学室から、放流の様子を見学できます。見学室はガラス貼りで、放流時にはダム放水の水しぶきが足元にかかってくるようなダイナミックな体験ができます。
なお、見学室は午前8:30〜午後17:00まで入ることができます。
計画を越える大雨により、奥津湖の水が、苫田ダムの上を越えるほどになった時に、洪水を流す設備を非常用洪水吐といいます。
苫田ダムの非常用洪水吐は、ダムの上から流す様になっており、水が流れ落ちやすいように工夫されています。
これはラビリンス型自由越流頂と呼ばれる構造で、重力式のコンクリートダムでは国内で初めて採用されました。
ラビリンスとは、迷路、迷宮という意味、この様に入り組んだ形にすることで、従来方式の2倍、287mの長さを確保でき、より多くの水をスムースに流すことのできる構造になっています。
※映像・音声を再生するには、Real PlayerかWindows Media Playerが必要です。
苫田ダムでは、中小の洪水などを流すために、水位維持用放流設備を設置しています。
ここでは全国に先駆け、引張りラジアルゲートと呼ばれるタイプのゲートが採用されました。
引張る力には強いという鋼の特性を活かした構造で、従来のゲートに比べて小さなスペースに設置することが出来ます。
また、高い水圧に耐えながら、スムースに流せる利点も有り、約2m四方の2門ゲートからは、毎秒80m3の水を流す事が出来ます。
ダムの中心に置かれたこのゲートは、先進的な技術を集めて建設された苫田ダムのシンボルとなっています。
見学室では、水が流れる様子を真近から見ることができます。
資料室には模型があり、ゲートの動きがよくわかります。
利水放流設備は、ダムから下流に上水、工業用水、灌漑用水、維持用水などに必要な水を流すための設備です。
直径1.5mの放流管からは、最大毎秒20m3の水を流すことができます。
その出口は、ダムの下にある減勢池の中2.5mにもぐっているため見ることが出来ません。
通常流す水は、有効利用するために、発電所を経由していますが、点検や落雷等で発電所が止まった時などに、この設備を使って水が流されています。
ダム上流側の奥津湖にためている水から、水温や水質を選んで下流へ流すために、どの深さからでも水を流すことができる、選択取水設備が設置されています。
潜水艦の潜望鏡のよう伸び縮みするシリンダーゲートで、のみ口を上下に移動させ、毎秒20m3の水を取り込むことができます。
苫田ダムでは、奥津湖の水の状況を監視しながら、この設備を使って、下流の環境に適した水を流しています。
大雨による洪水等で、毎秒100m3を越える水を苫田ダムから流す場合には、河川を利用されている人々にダムの情報を知らせるために、警報設備からの警告や、警報車によるパトロールが行われます。
警報車は警告しながら河川沿いを回り、河川内に人がいないかを確認します。
警報設備からはサイレンやアナウンスが流れ、河川内の人々に増水に注意するよう警告します。
赤いサイレンからは、約300m先まで音が届きます。
警報設備は苫田ダムから約12km下流の中国自動車道付近までの、18箇所に設置されています。
管理所は、苫田ダム・奥津湖を安全に管理するコントロールセンターです。
ここには吉井川流域に降る雨の量等の気象データの他、奥津湖に流れ込む川の流量、貯水池の水位や水質、水温などの情報が集まっています。
大雨の際はここからゲートなどの設備を操作し、苫田ダムから流す水の量をコントロールして、洪水被害の軽減につとめています。
また建物は免震性に優れ、万が一の地震においても重要な司令室の役割を果たすことが出来ます。
操作室では、流域の雨量や河川の流量などで、気象・水象データをはじめ、奥津湖の水位、水質、水温データなどが集められる、これらの情報から洪水調整や渇水補給等、総合的に苫田ダムを管理するところです。
満水時に水が溢れ出るのを防ぐために造った「苫田鞍部ダム」。第2ダムあるいは脇ダムとも呼ばれ、奥津郷に足を踏み入れるとまず目に入ってきます。樹木や水の色とコントラストをなす真っ白の城壁は近代技術の粋を結集して造られました。鞍部ダムを越えると、眼下には奥津湖が広がります。
ゾーン型フィルに似ていますが、貯水池側に水をせき止めるコンクリートやアスファルトを設置している形式です。遮水部分が表面にあるのでメンテナンスが簡単です。
苫田鞍部ダムはこの型式です。
苫田鞍部ダムはコンクリートで遮水するコンクリートフェーシングダムという数少ないダムです。