第1回

資料

要旨

発言要旨

出  欠 氏  名
木幡 修介 氏
塩飽 浩一郎 氏
田江 泰彦 氏
野津 登美子 氏
福島 律子 氏
藤岡 大拙 氏
丸 磐根 氏
吉田 薫 氏

※五十音順

※当日欠席の委員の方々には、後日意見をいただいております。 


斐伊川の治水対策は流域全体の問題知恵働かせ望ましい方法を

山陰中央新報社相談役  木幡 修介 氏

私は宍道湖のほとりで生まれ育ったため、斐伊川流域の水の恵みや美しさにいつも触れてきました。その一方で、洪水により上流の家屋から流失した家財などが流れてくる様子を目の当たりにした経験もあり、流域の水害の怖さも子どものころから知っています。
現在、流域で行われている治水対策は、昭和四十七年の大水害を契機に、「百年の大計」として示され、上流のダム、中流の放水路、下流の大橋川改修のいわゆる三点セットで進められています。
既に上流のダム建設や中流の放水路建設が進み、今、下流にある松江市の治水対策である大橋川改修事業に直面しています。
この事業に対して、「百年に一度来るかどうか分からないのに、そこまでしなくても」という意見もあるようですが、これまで、上流、中流の住民が既に大きな犠牲を払って進められてきた経緯があり、下流の住民だけが負担しないわけにはいかないのではないでしょうか。
問題は方法論で、水辺や街並みの美しい景観の保全、立ち退きに伴う代替地の確保など、知恵を働かせることが重要です。全国の事例などを参考にすれば、望ましい方法があると思います。 斐伊川の治水対策は、流域全体の問題として考えなければなりません。これまでの経緯を知っている者として、忘れられている、あるいは忘れさせられてきた斐伊川の問題をもう一度振り返る必要があるように思っています。
こうした状況を踏まえて今回の懇談会は、焦点を絞って具体的に議論を進めた方がよいと思います。


宍道湖の魅力再発見は地域の生き残りをかけて取り組むテーマ

日本旅行業協会島根地区会長  塩飽 浩一郎 氏

 都会の人から見ると、出雲は神話の国であり、田舎らしさが期待されているのだと思います。観光でこの地域に来る人は、きれいなものを見てゆっくりしたいと思ってやってきます。それに答えられる田舎らしさをいかにして出せるか、表現できるかが観光面の大きな課題です。この地域のオンリーワンを何に求めるかという意味で、宍道湖は大きな可能性を秘めています。
しかしながら、現在の宍道湖は国道9号沿いがコンクリートで固められ、単なる池になってしまっています。ヨシを植える取り組みは、水質浄化にもなり良いことだと思います。もっともっと自然を出すべきです。現在求められているのは、自然を残すというのではなく、創り出すということではないでしょうか。
宍道湖の見所と言えば美術館前から西側一帯の夕日の見える場所です。観光バスやマイカーが止められる場所があると、宿に行く前にちょっと寄って、宍道湖の夕日を見てもらうことができます。道の駅「キララ多伎」は良い例です。駐車場はアスファルトですが、北側は日本海の自然が残っており、風光明媚な場所となっています。
外国人旅行客に注目することも重要です。ビザの発給緩和で、今後は中国からの観光客が増加すると予想されます。欧米人は自然志向で、島根はいいところだと思ってもらえるかもしれません。外国人から見た魅力も含めて、多様な意見を出し合うべきです。
何が宍道湖水辺の魅力なのか。どうすればそれを伝えることができるのか。地域の生き残りをかけて取り組むテーマであることは間違いありません。


一番大事なものは何なのか水辺のよさを再発掘し共有することが出発点

島根経済同友会代表幹事  田江 泰彦 氏

この懇談会で私が新鮮に感じたのは斐伊川、宍道湖、中海を一本の流れとして見る見方です。川はつながっているという発想が欠けて、局所的な理解にとどまってしまっている面も多々あるのではないかと考えさせられました。
水辺と聞いて石川淳の「諸国畸人伝」を思い出しました。その中で、小林如泥(松江藩主おかかえの有名な彫刻家、指物師)が、夕方になるといつも宍道湖の水辺に出て、また仕事に戻った、と紹介されています。宍道湖の夕日を見ていたに違いない、と石川淳は書いていますが、水辺に立って、夕日を見て、エネルギーを充てんした如泥を容易に想像することができます。何が作用しているのか明確には分かりませんが、色々なものがある種のバランスを保っているのでしょう。人工物が全て悪いわけではありませんが、何が大事なのかをつかんでいないと、一番大事なものを壊しかねません。県立美術館とその周辺は、そういうバランスを崩さずにうまくつくられた例だと思います。
一番肝心なのは、何が大切なものなのかを見失わないことですが、それにはまず本当の魅力を我々が実感していることが前提です。水辺のよさを再発掘して、共有することが出発点だと思います。
企業活動も似たようなところがあって、競争の中で差別化を図るためにオリジナリティを追求しますが、そうして創られたオリジナリティも、その会社を育んだ土地や文化、風土と根っこの部分でつながっています。坂本竜馬や西郷隆盛が土佐、薩摩から生まれたのも必然性があるのだと思います。この地域の風土の大部分を占める
〝水〟について、その持っている価値、意味合いを見直すことは非常に重要だと思います。


鳥などの生き物が生き生きと生活できる環境人間にとってもベスト

ホシザキグリーン財団企画交流課長心得  野津 登美子 氏

 仕事上、宍道湖と斐伊川にかかわりが深く、源流の船通山から宍道湖までヘリコプターで飛行した経験がありますが、斐伊川流域は上空から見ても素晴らしい風景です。
私は毎日、宍道湖周辺の鳥類の写真を撮影しています。その一コマ一コマが印象的で、シャッターを押した瞬間のことが思い出として残っています。 宍道湖は鳥などの生き物の営みが生き生きとしていて、豊かです。生き物が生き生きと生活できる環境。それは、人間にとっても暮らしやすいベストな環境だと思います。
流域の素晴らしさを多くの人々に知ってもらいたいとの思いから、環境学習プログラムなどで子どもたちと接しています。ですが、地球温暖化など、近年の環境変化により、子どもたちが大人になったときに、これらの生き物や風景を見ることができるかどうか不安もあります。
一例を挙げると、宍道湖は国の天然記念物のマガンが集団越冬する日本列島の南限地ですが、その飛来数は年々増えています。 宍道湖は東岸から見る夕日だけでなく、西岸から見る朝日も素晴らしいと思います。秒単位で変わる湖面はとてもすてきです。宍道湖のすばらしさを多くの人に伝える取り組みを活発にしたいと思っています。人々の意識が宍道湖に向くことで、宍道湖を多面的に、より良くする方向で考えられるようになると思います。


景観や文化引き継ぐために地域の人材や資源取り入れた教育展開すべき

島根県教育庁教育監  福島 律子 氏

 わたしは宍道町で生まれ育って、今も同町で暮らしているので、宍道湖は常に生活に結び付いています。宍道湖はわたしの人生とは切っても切れない、あるのが当然のような存在で、ふるさとの誇りともいえます。宍道湖は、見る方角によっていろいろな顔を持っていますが、いずれも心を和ませてくれます。
宍道湖の豊かさ、特に自然景観や周辺の文化はこの地の風土がみ出した貴重なものであり、大切に次世代へ伝えていく必要があります。学校だけでなく、地域の人材や資源を取り入れた教育を展開すべきだと思います。
二〇〇五年度から、県教育委員会として島根の小中学校を対象に「ふるさと教育推進事業」を重点的に展開する予定です。学校がそれぞれの地域に関係したテーマを決め、各教科の学習や総合的な学習の時間を活用して年間三十五時間を充てることとしています。そのテーマの一つとして宍道湖が考えられ、環境や歴史文化などいろいろな面で取り上げることができると思います。
宍道湖は干拓も行われ、周辺の開発も進みました。そんな宍道湖の変遷をわたしは目の当たりにしてきましたが、それは時代の要請でもあり、仕方がない側面もあります。しかし、できる限りヨシ原などを残した自然との共生を図ってほしいと思います。 地域づくりは、あまり保守的になってもいけませんが、ただ便利さを追うのではなく、水や景観を生かした、ホッとできる空間を大切にして欲しいと思います。


多様な考え方がある「水辺」様々な意見認識しながらあり方を探りたい

島根県立女子短期大学学長  藤岡 大拙 氏=座長

 斐伊川や神戸川など出雲地方の河川は、人文社会や自然科学などの見地から総合的に研究された例があまりございませんので、この懇談会は非常に意義があると思います。
斐伊川流域には、斐伊川の他、宍道湖や中海といった湖もあり、一口に「水辺」といっても多様な考え方があると思います。
宍道湖には、世界に冠たる夕日の美しさがあるなど、往々にして風景としての美しさが強調されますが、文豪・田山花袋も作品の中で、宍道湖には不純な心を浄化する力があると言っているように、目には見えない神秘的な何かがあると思います。 本来は静かで霊的でさえある宍道湖には、喧騒や慌ただしさは似つかわしくありません。
戦後、宍道湖のほとりにまだヨシがたくさん生えているころ、ヨシキリの声を聴くためにお忍びで宍道湖へ出掛けていた風流な県知事がいました。渚の音やそこに集く虫の音や小鳥のさえずりが自然と聞こえ、繊細な美意識が持てる時代がついこの間まであったのです。
斐伊川流域は古代出雲文化発祥の地で、先人の刻んだ歴史とそれを物語る貴重な文化財や伝統的祭事があります。近年は「宍道湖水辺八景」が新たに選定されるなど、市民の意識を水辺に向ける取り組みが始まっています。
島根県東部の空の玄関口である出雲空港と松江市を結ぶ山陰道が整備され、移動時間が短縮され利便性が高まる一方、観光客の視点では、時間がかかっても宍道湖を眺めながら移動できる方が良いという声もあるそうです。宍道湖周辺の水辺のあり方は、こうした様々な意見を認識しながら考えていきたいと思います。


治水と中心市街地の活性化二つの観点を連関させ考えなければならない時期

島根県商工会議所連合会会頭  丸 磐根 氏

 斐伊川流域の水辺を考える場合、治水対策と、山陰有数の人口集積が進んでいる流域の営みの二つの観点があると思います。それぞれ百年の大計を持って取り組むとともに、相互に連関させて考えなければならない時期に来ていると感じています。
治水の観点から、大橋川改修問題を解決することと、人間の営みの観点から、流域最大の都市である県都・松江市の大橋川周辺をどう活性化させるかという課題があります。
今後も発展が期待される松江市にとって、治水の不安があることは、大きなリスクを抱えていることにほかなりません。自然の保全と人間の営みを支える基盤整備というテーマを調和させながら、治水上の問題を解決することが必要です。
松江商工会議所は昨年、各種産業活動や松江市の市民生活がさまざまな場面で「水」と切り離せないという考えに立ち、「二十一世紀行動計画~水色シンフォニー松江」をまとめ、水を活かした都市基盤の整備や商業の活性化策などを示したところです。
その中で、宍道湖の水辺活用の一例として、湖上をゆっくり周遊しながら沿岸の観光施設などにも立ち寄る宍道湖遊覧船の運航などを提案しました。
現在、議論されている大橋川改修事業を含む斐伊川下流の治水対策をしっかりと解決し、合わせて松江市の中心市街地活性化の観点からの水辺の活用策についても広く議論すべきだと思っています。


全国的にも類いまれな宍道湖の美しさグレードの高い手法で整備を

風景研究室代表  吉田 薫 氏

 全国に美しい風景はたくさんありますが、宍道湖の夕日や景色はかなり特殊だと思います。宍道湖は、大気のわずかな変化を如実に映し出し、山陰特有の気候条件から生じる独特のもやなどが風景に反映されます。
二十、三十㌔も景色が見通せるため、その変化がよく見て取れます。宍道湖より大きな湖では、もやが強くなって見通しがきかなくなり、夕日もかすむでしょう。つまり、宍道湖は夕日を見るのにちょうどよい大きさの湖なのです。
松江市の東岸から斐川町の西岸を経て、日本海まで約四十㌔の距離があります。この辺りで海上からの西風が島根半島に当たって上昇気流が発生し、雲が出やすい条件があるのではないでしょうか。宍道湖の東岸から夕日を見るにはちょうどいい位置に雲が見えることとなります。
こうしたさまざまな条件を考えると、宍道湖の夕日が格別に美しいといわれる根拠があるように思います。文豪ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は、百年以上も前にそういうことに言及し、「この辺りは大気が特殊だ」と言っていました。 宍道湖の風景で忘れてはならないのが、大山と嫁ケ島です。この両者により宍道湖の風景の美しさは倍加しています。また、松江城やシジミ舟などの人工物も宍道湖の自然ととても調和してい
ます。
河川の整備にはいろいろな手法があるでしょうが、宍道湖の風景の美しさは類まれなので、グレードの高い手法で整備していただきたいと思います。