ある老女は、丁酉水は老女が12才の時に起こった洪水で、若桜橋の向う本浄寺の前町に住んでいて、日暮れから父母に助けられて二階に上がったことと、若桜橋が落ちたことはしっかり覚えていると話したといいます。その他のことは記憶していないけれども、渡辺家の外屋が流れてきて橋に横たわったので、その隣側の民家は地震のように揺れ、水かさもすぐに五、六寸(約15〜18cm)も増えたため、今はやむをえないと父母とも念仏を唱えるようにいうので、これは、もうこれで死ぬのだと悲しくなり、河上を見ると、水は渦を巻いて音をたてていました。その勢いは武宮の境内の堤を破り崩し、内外屋を押し壊して、また、上流から小屋が流れてきて、渡辺家の外屋と並んで橋をべたっと塞いだので、すぐに若桜橋を押し流して智頭橋にかかり、これもひとたまりもなく押し流されてしまったと、現在も見ているように覚えていると語りました。 |